・・・あぁ、寒いなぁ。
学校から帰る途中、私は運悪く、信号に引っかかってしまった。
しかも、この信号、長いんだよねぇ・・・。
暦では、もうすぐ春になる頃だと言うのに、まだまだ寒い日が続いている。
今日も手袋が必要だったか・・・。
そんな後悔をしたけど、あとは帰るだけなんだ!
そう言い聞かせて、掌に息を吐きながら、少しでも寒さを凌いで、信号を待った。
う〜ん・・・。ずっと手は冷たいままだな・・・。
やっと、信号が青に変わって、私は全く温まらなかった手を下ろして、歩き出そうとした。
そのとき、私の右手が温かい手に掴まれた。
「よ!じゃん。」
「や、山本くん?!」
「今から帰んのか?」
「そ、そうだけど・・・。」
「こんな時間に?」
「今日は委員会があったから・・・。」
「そっか。こんな時間だと、余計に寒いよな!」
「うん、そだね・・・。」
「俺はさっきまで部活してたから寒くないんだけど、が寒そうにしてんのが見えたから、思わず。」
なんて言いながら、山本くんはニッコリ笑って、山本くんが掴んでいる私の右手を上にあげた。
そんなことをされると、この状況は山本くんと手を繋いでいるんだ、って目で確認できちゃうわけで・・・。
って、繋いでる・・・!!!!
山本くんは、同じクラスで、とても優しくて、面白くて。野球も上手くて、頼れる存在で。
だから、男子にも女子にも人気があって、すごくモテている。
そして、私も山本くんを好きだと思っている女子の1人だ。
そんな山本くんと、手を繋いでるだなんて・・・。
私は驚きの余り、歩くことさえも忘れて、まださっきの信号の前にいる。
そして、そんな私たちを通り過ぎる女の子たちが羨ましそうに、こっちを見ている。
あぁ、ごめんなさい!!ごめんなさい!!!
すぐに離します!!
「ありがとう。でも、大丈夫だよ。」
そう言って、私は手を引こうとした。
それでも、山本くんは手を離そうとはしてくれなかった。
いや、私としては、嬉しいことなんだよ?
だけど、やっぱり、周りの人たちに申し訳ないし・・・。だって、あの山本くんだよ?!
こんな状況を見られて勘違いでもされたら、山本くんにも申し訳ないし・・・。
って、もう既にいろんな人に見られてるし、悲しいことに私と山本くんじゃ釣り合わないから、勘違いはされてないと思うけど。
「大丈夫って・・・。そんな訳ないだろ。ほら、そっちの手も出してみ?」
山本くんは、そう言いながら、私の左手までも掴んでくれた。
あぁ、本当にごめんなさい!!でも、私が頼んだわけじゃないし・・・。でも、そんな山本くんの厚意を断ってないのも確かだし・・・。でも、正直嬉しいから、断れるわけもないし・・・。でも、本当に周りや山本くんには悪いと思ってるし・・・。でも・・・。
って、私はなんて優柔不断なんだ・・・!でも、こんな状況じゃ、仕方がないでしょ??
こんな嬉しすぎる状況で、正常な判断なんて下せないよ・・・。
「やっぱ、こっちも冷てぇのな。」
そう言いながら、山本くんは私の両手をぎゅっと握ってくれた。
・・・大変だ。私は一生分の運をここで使ってしまったんだろうか?
それでもいいぐらい嬉しいことだけれど、やっぱり・・・。
「あの・・・、本当にありがたいんだけど・・・。こういう状況って、変な勘違いされちゃうと思うんだ。だから、もういいよ。ありがとう。」
この寒い中で、山本くんの温かい手を離すのは、とても辛い。
ううん、違う。
『変な勘違いされちゃう』と言うことによって、山本くんの気持ちがわかってしまう。
そして、私は山本くんを諦めなければいけなくなる。
そんなことは前からわかっていたことじゃない。
それでも、やっぱり・・・。そのことが辛い。
「変な勘違いって?」
・・・って、山本くん。意味、わかってなかったんだ・・・。
だけど、ちゃんと説明しなきゃ。
「ほら・・・。なんか、付き合ってるんじゃないか、とか思われたら、山本くんも困るでしょ?」
「ん?何か困ることあるか、それ。」
・・・やっぱり、山本くん、あまりわかってないなぁ。
と思ったけど、山本くんは少し考えたあと、ハッとした顔になった。
どうやら状況を理解してくれたみたいだ。
「あぁ、悪い!」
慌てて、山本くんは私の手を離した。
うん。寂しいけど、これでいいんだ。
「ううん。山本くんの手、本当に温かくて助かったよ。ありがとう。」
私は何とか、笑顔を作れているだろうか?
「いやぁ、本当悪い・・・。」
「いや!全然、大丈夫だって!!」
そんなに謝られても困る。私はむしろ、嬉しかったんだから。
だけど、そんなことは言えなくて。
本当に済まなそうな顔をしている山本くんに、『大丈夫』と言うことしかできなかった。
「そうだよな・・・。俺が良くても、が困るもんな。」
「私は困らないよ!全然!!」
そんなに謝らないで?本当に悪いのは、こっちなんだから。
「でも、は誰か他に好きな奴がいるってことだろ?俺はのこと好きだから、つい・・・。」
「ううん!私は他に好きな人いないけど・・・。」
ん?ちょっと、待って。私、ツッコむところ、間違ってない??
「え?山本くんは誰が好きって・・・。」
「ん?だけど・・・?」
「・・・・・・・・・えぇ?!!ウソ〜?!!」
「ウソじゃねぇって。」
「・・・そうなの?」
「うん。だから、寒そうにしてるを見て、思わず手を掴んじまったんだけど・・・。は他に好きな奴がいたんだな。」
そう言って、山本くんは少し寂しそうに笑った。
って、違う!!
「違う、違う!!」
「何が?」
「私も・・・。その・・・。山本くんのこと・・・・・・好き・・・です。」
「本当か?!」
山本くんの勘違いには急いで否定した私だったけど、好きだと告白するのは恥ずかしくて躊躇ってしまった。
もう1度、好きだと言うこともできず、私は山本くんの問いに、うんと頷くことしかできなかった。
「なんだ!じゃあ、やっぱり、誰も困らねぇんだから、手繋いで帰ろうぜ!」
私は頷くことしかできなかったのに、それでも山本くんは嬉しそうに、そう言って、また私の右手を掴んでくれた。
「・・・ありがとう。」
「どういたしまして!・・・あ、でも。悪い。」
「どうかした・・・?」
「いや・・・。俺とこうやって喋ってる間に、また信号が・・・。」
山本くんにそう言われて目の前の信号を見ると・・・。その信号は、見事に赤い光を放っていた。
「いいよ。その・・・。山本くんがこうしてくれてるなら、寒くもないし。それに・・・少しでも、山本くんと一緒にいられるし。」
「そっか。・・・ありがとな、。」
そう言った山本くんの笑顔に、私はやっぱり山本くんが好きなんだなぁ、と思って、あらためて恥ずかしくなった。
でも、これで手も顔も寒くなくなった。・・・ってことにしておこう。
むしろ、顔は真っ赤で暑いぐらいなんだけどね。
なぜか、初山本夢です。突然後ろから手を掴むなんて、そんなことを自然にできそうなのは山本くんぐらいかなぁと。
この行動は白とも黒とも取れますが、山本くんって、白でも黒でも素敵ですよね!(笑)
今回は白イメージで書いてみました。
ちなみに、このネタは、学校帰りに、信号待ちをしている時に思いつきました。
そして、信号が変わってからも「こんなことを自然にできるのって・・・山本くんかなぁ?」とか考えながら、歩いていました。すると。
私を通り過ぎようとした、見知らぬ男性の左手がちょうど私の右手に当たりまして・・・。正直、かなり驚きましたよ!声も出ない程驚いたので、軽く頭だけ下げて謝りました。
でも、そのお兄さんは自然に通り過ぎたので、「普通そうだよな・・・」と思いました。
皆様も、妄想中は周りへの注意が散漫になりますので、ご注意ください(笑)。
('08/02/12)